村上世彰『生涯投資家』は名だたる日本のITベンチャー経営者への述懐が見どころ

村上氏は終始「コーポレート・ガバナンス」を軸としながら次々と投資案件を手がけていきます。中でもソフトウェア産業に身を置く私にとっては第6章「IT企業への投資」がいちばんの見どころでした。

村上世彰『生涯投資家』 (2017-06-21)

ドッグイヤーすら遅い

投資術の説明のくだりで投資家の恐ろしさが味わえました。なにが恐ろしいのかと言うと、「お金を突っ込んでそれを契機に投資対象が変化する」ことを指標の1つ(IRR)として投資判断をしていることです。

これは事業会社の基準に照らすととんでもないスピード感です。プロの投資家はこれほどまでの短期決戦を、資本構成の歪みを取り除き尽くまで(あるいは敗北して資金が尽きるまで)仕掛け続けるのでしょう。「情報産業」という言葉は彼らプロの投資家のためにあるのではないかと思わされました。

実際に村上氏自身、複数回に渡って「ITの投資は待ちが必要」とすら述べています。ドッグイヤーを自認するIT産業すら彼にとっては展開が遅いのです。

売上目標は古い経営スタイル

東証1部に上場するような会社でも単純な売上の最大化を目標にしていることを村上氏は批判しています。手元にある資源を元にどれだけ付加価値を生み出せているかを測るには ROE (Return On Equity) が良いとのことで、全く納得のいく主張です。専門ではありませんが、ROEは言い換えると「世の他の場所よりもウチにお金を預けたほうが効率がいいぞ」ということを数字で示せるものだと僕は理解しました。

ITベンチャー創業者の評価

さて、目次を見ればIT業界のメガベンチャーの社名がズラリと並びます。ちょうど「村上ファンド」を立ち上げたころが日本のITバブルと重なったこともあり、村上氏から見た創業者たちの評価の非常に興味深いこと、この上ありません。

そんな村上氏すらも舌を巻かざるをえなかった人物も1人出てきます。おおかたの予想はつくかと思いますが、オンザエッジ堀江貴文社長です。詳しくは本書に譲ります。

ただし、あくまで村上氏は「テクノロジーのことは分からない(期待値が描けない)」という姿勢を貫きます。往年のウォーレン・バフェットを想起させますが、村上氏の場合はバリュエーションが割安であれば投資を迷いません。ITバブル崩壊後のサイバーエージェントがそうでした。

生き様に焦燥させられる

たんに知識欲を満たしてくれるだけではなく、信念をもって活躍する姿勢から直接は語らずとも読者に焦燥感を植え付けてくれる良書でした。筆致は冷静なのに真っ直ぐで熱いんですね。毛色は違いますが読後感が『社長失格』と少し似ています。

以上です。

【目次】

  • はじめに――なぜ私は投資家になったか
  • 第1章 何のための上場か
    • 上場のメリットとデメリット/官僚として見た上場企業の姿/コーポレート・ガバナンスの研究/ファンドの立ち上げへ――オリックス宮内義彦社長との出会い/日本初の敵対的TOBを仕掛ける/シビアな海外の投資家たち
  • 第2章 投資家と経営者とコーポレート・ガバナンス
    • 私は経営者に向かなかった/私の投資術――基本は「期待値」、IRR、リスク査定/投資家と経営者との分離/優れた経営者とは/コーポレート・ガバナンス――投資家が経営者を監督する仕組み/累積投票制度を導入せよ――東芝の大きな過ち
  • 第3章 東京スタイルでプロキシーファイトに挑む
    • 東京スタイルへの投資の始まり/十五分で終わった社長との面談/激怒した伊藤雅俊イトーヨーカドー会長/決戦の株主総会/なぜ株主代表訴訟を起こしたか/長い戦いの終わり
  • 第4章 ニッポン放送とフジテレビ
    • フジサンケイグループのいびつな構造/ニッポン放送株式についてくる「フジテレビ株式」/グループ各社の幹部たちの思惑/本格的にニッポン放送への投資に乗り出す/生かされなかった私たちの提案/私が見たライブドア対フジテレビ/逮捕
  • 第5章 阪神鉄道大再編計画
    • 西武鉄道改革の夢――堤義明氏との対話/そして阪神鉄道へ/会社の将来を考えない役員たち/阪神タイガース上場プラン――星野仙一氏発言の衝撃/またしても夢は潰えた
  • 第6章 IT企業への投資――ベンチャーの経営者たち
    • ITバブルとその崩壊/光通信とクレイフィッシュ/USEN、サイバーエージェント、GMO/楽天――三木谷浩史氏の積極的なM&A/ライブドア――既得権益に猛然と挑んだ堀江貴文氏
  • 第7章 日本の問題点――投資家の視点から
    • ガバナンスの変遷――官主導から金融機関、そして投資家へ/日本の株式市場が陥った悪循環/投資家と企業がWin‐Winの関係になるには/海外企業の事例――Appleとマイクロソフト
  • 第8章 日本への提言
    • 株式会社日本/コーポレート・ガバナンスの浸透に向けて/モデルケースとしての日本郵政/もう一つの課題――非営利団体への資金循環/世界一の借金大国からの脱却
  • 第9章 失意からの十年
    • NPO/東日本大震災について/日本における不動産投資/介護事業/飲食業/アジアにおける不動産事業/失敗した投資の事例――中国のマイクロファイナンス、ギリシャ国債/フィンテックへの投資
  • おわりに

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