イデコ入門

個人型確定拠出年金、いわゆるイデコについての筆者の見解を書き出しておく。良い入門記事は多いのでブログを書く意義は薄いのだが、知り合いに紹介する用途として記録しておきたい。

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(1) イデコをはじめる前提条件

本稿の想定読者は日本在住の会社員だが、その他に前提条件もある。それは、まず貯金があることだ。なぜなら、そもそもイデコは投資であり、投資は余剰資金で行うものだからである。一般的には12-24ヶ月ほど生き延びられる流動性資産(すぐに現金化できる預金などの資産のこと)は確保しておくように推奨されている。

では貯金もあるし借金もあるという場合はどうだろう。答えは借入金利による。金利よりも利回りがよければ投資に回すという判断に理はある。たとえば住宅ローンや貸与型奨学金などは金利が低い傾向があるのでイデコとの両立はしやすい。そもそもローンは手元資金を増やす効果があり、借入それ自体が悪いわけではないというわけだ。ただし消費者金融で借りて一世一代の勝負にでるイメージを抱いているとすれば、それは少なくともイデコの趣旨にそぐわないとは断っておきたい。

(2) イデコの別称

情報収集時に役立つので別称も紹介する。愛称は「イデコ (iDeCo)」だが、根拠法もあるお堅い名称としては「個人型確定拠出年金」と呼ばれる。制度が導入される前から気にかけている古老にとって馴染みがある呼び方は「日本版401k」。あとは英称にもとづいた “DC” が商品名に入っていることもあるので覚えておくとよいだろう。なお別制度としては「ニーサ (NISA)」や「特定口座」がある。

(3) イデコは60歳まで引き出せない

投資はあくまで自己責任であるため他人におすすめを語りにくい分野である。しかしイデコに関しては、筆者は親族を含め身近なひとにも推奨している。

その最大の理由は所得税と住民税の控除がある点である。言ってみればイデコは「合法で収入が少ないように見せかける」ことができるのだ。ほかにも自己破産しても召し上げられないなど、法的な保護が強いという利点もある。起業家など特異な生き方をしているひとを含めても、むしろイデコに向いていない属性を探すほうが難しいくらいの制度なのだ。そんな万人向けのイデコだが、唯一にして最大の欠点がある。それは「60歳までは現金化できない」ことだ。もしこの条件をのめない事情がある場合はイデコは選択肢から外れることになる。

逆にいうともし60歳まで待てるのであれば、イデコは余剰資金の置き場として第一候補としてあがるだろう。この年齢の制約は選択肢が減っているという意味で欠点には違いないのだが、実は投資の初心者には心強い味方にもなる。それがなぜかというと、相場が下がったときに怖くなって売ってしまうことがなくなるからだ。当たり前だが、相場は下がったときに買って、上がったときに売るのが有利だ。しかしなかなか、いざ自分の財産の話となるとセオリー通りに動けないのが人間の悲しい性であり、それはしばしば投資の失敗に結びつく。その点、イデコには典型的な失敗を防ぐ仕組みがビルトインされているともいえる(厳密に言えばイデコにはスイッチングと呼ばれる仕組みが用意されており、定期預金などの安全資産へ資金を移すという「売り」相当の操作はできてしまうのだが)。

イデコをはじめる前提条件として貯金の話をしたが、相場の乱高下に見舞われても当面の生活を守るバッファがあれば冷静な判断を下せるだろう。心構えとしては、元本が30%を割り込むような事態を想定しておかなければならない。今まで月給から捻出してきた虎の子の1000万円が300万円になってしまう事態でも、平然と月次の積立を行うのだから正気とは思えないかもしれない。しかしそんな逆張りを行うからこそ利殖が達成できるのである。

(4) いくら得するの?

イデコの上限額は勤め先によって異なるが、仮に株式を「日本:先進国:新興国=1:8:1」の割合で 2.3万円/ 積立投資した試算を示す。

試算結果も大事なのだが、売却時に利益がでた場合にニーサやイデコであれば免税されるという点を強調しておきたい。さらにイデコは積立にまわした金額分は所得から差し引かれて(そのぶん税金が安くなって)有利でもある。具体的には「2.3万円/月」を30年間積み立てた場合 828万円 分も控除される。これは、あなたが平均年収だとすると所得税と住民税で税率30%なので248.4万円が免税されたことになる。これはリスクをとった運用益が最頻値で100万円そこそこしか伸びないことに比べると効果が大きい。しかも、免税なのでより確実に手に入る利益である。

もし制度が拡充されて会社員に対しても現行の自営業者並みに増枠されれば通算700万円以上の免税効果が見込める。ここから、総計としては運用商品の成績に応じたボーナスが少々上乗せされる。正直なところ30年でこの程度かと落胆するかもしれないが、銀行預金の利子と比べれば悪くないとでも捉えておくのが健全だろう。要点としては、いくら得するかではなく、支払う税金を減らせることに意義を見出すべきだ。

表現を改めると「第2の預金」という言い方がイデコの趣旨をよく表していると思う。

    第1の預金: 12〜24ヶ月分の生活資金を手元に残しておく(元本保証およびペイオフがある)
    第2の預金: イデコで老後資金を運用する(元本保証およびペイオフはない)

この2段階で安定的な基盤を築いたうえで、さらに余剰資金がある場合は利潤を追求した投資を行うのは個人の自由だろう。

(5) 証券会社と商品の選び方

TL;DR: 本節は長くなるので趣旨をまとめると次の通り。

  • 楽天証券かSBI証券でイデコの口座を開く(自分で選ぶ場合のみ)
  • 外国株式と日本株式を 9:1 の割合で積立する
  • 同クラス内では最も手数料の安い商品を選ぶ

検証できるように理由も一応書いておく。

まず、はっきりいって、証券会社側は個人投資家に不利な商品を売れば売るほど儲かる。なぜならそれが手数料収入につながるからだ。証券会社は営利企業なので儲かる商品の露出を高める。つまり個人投資家にとって不利な商品へ誘導しようとしてくる。悪質な証券マンが「回転売買」をさせる話を聞いたことがあるかもしれないが、それも売り買いの取引単位で発生する手数料を得ることが1つの動機になっている。イデコは金融庁の肝いりなので極悪な商品は選べないように配慮されてはいるが、残念ながら最適な商品が選びやすい設計にはなっていない。

ということで、個人投資家が利殖を目指すには手数料を最小化することが第一歩となる。これはイデコでもニーサでも共通の指針である。どういった投資対象にするかを選ぶよりも先に、まずは購入手数料や信託報酬といった諸費用が高い商品は不適格なので除外しよう。具体的には購入時の買付手数料は無料(ノーロード)が当然で、信託報酬などの管理費は 0.2% 台を下回ることが好ましい。例えば 楽天VT は本稿執筆時点で全世界株(先進国および新興国の大中小型株)を対象としながら 0.2% 台に収まっている。

こういった手数料を支払うことは、言ってみれば投資する原資が減ることと同義である。しつこいようだがリスクプレミアムを得るうんぬん以前の話なので、手数料には十分気遣おう。

さて、手数料にさえ気をつければそこから先はもうお好みの世界だ。どの投資対象が儲かりそうか思う存分悩めばよい。しかし率直にいって、あなたはどの商品が儲かるか事前に知ることはできない(できるのならば、本稿を読むのは中断して予測にもとづいて種銭を突っ込んで悠々自適の生活を送るべきだろう)。

そこで特殊技能の求められない資産分配(アセットアロケーション)の方策を紹介する。ちなみに正直なところ、この節の残りは読みとばして構わない。なぜなら手数料さえ抑えておけば「勝負のテーブル」にのっているのでそれ以上の助言は余計なお世話だからだ。それに、そもそも最適解を定義しようにも、読者の年齢や人生指向に強く依存するだろう。

それでも一例として筆者の意見は述べておく。おおまかな方針としては次の通りだ。

  • (5-1) イデコをニーサよりも優先する
  • (5-2) 分散投資をする
  • (5-3) 時価総額で重み付けする

長くなるが、下記にてそれぞれの詳しい説明も行っておく。

(5-1) イデコをニーサよりも優先する

ニーサとイデコは簡単にすみ分けできる。イデコにもニーサにも上限額があるが、どちらかを使いきれない場合はイデコを優先する。理由はその方が税制面で長期的に有利だからだ。なお特定口座はさらに優先度が下がる。

(5-2) 分散投資をする

次に分散投資について。平易に表現すると、幅広い銘柄を買っておくということだ。具体的には全世界の株式を対象にする。そう聞くと大変そうに思えるかもしれないが実際には「おまとめパック」のような投資信託商品があるのでそれらを1〜数個程度買えばよい。代表的な商品には米国で支持を集める VT がある(日本では楽天証券が扱っている)。

全世界の株に投資するというのは「担い手は予測できないが、長期的には世の中は成長していくよね」という非常に制約の弱いコミットメントに賭けられるということだ。そうすると、値動きの性質としては大化けはしないが大損もしない。むろん金融危機のあおりはうけるが証券が紙切れになることは現実的にはありえない。ここで思い出したいのは、相場が下がったときは「買い時」だということだ。金融危機はセール期間中だと心得て、強い心で月次の積立を続ければよい。そういった意味で、利殖には相場が乱高下するときに市場に残り続けることが欠かせない。一方、単一株にのみ集中していると一発退場させられてしまう恐れがある。こういった分散投資の大切さは金融業界では「卵は一つのカゴに盛るな」という警句として語り継がれているそうだ。日銀や年金機構なども当然に分散投資している。

なお本来の分散投資は大まかには「株式と債券」の2本立てを指す。しかし(細かな話は割愛するが)イデコの場合は株式だけを買えばよい。期待リターンを下げてでも価格の振れ幅を抑えたい場合は、証券口座で日本国債「変動10」を購入してバランスを調整するとよいだろう。

(5-3) 時価総額で重み付けする

最後に時価総額での重み付けも紹介する。時価総額での重み付けとは、極限まで自分で株価の予測をしない方針のことだ。つまりこれほど素人におあつらえ向きの方針はない。実際に、先述のVTといった主要な商品は国や企業にまたがって時価総額で加重されている。2018年時点での具体例としては、世界の公開企業で時価総額が最も高い Apple の保有率を高めることを意味する。

実際の商品ラインナップとしては「日本株クラス」と「外国株クラス」に分かれている(先述の楽天VTなどは例外的に1商品として完結している)。そこで日本市場が世界に占める割合は近年では6-8%ほどなので、おおよそ1割を割り当てて積立すればよい。また「外国株クラス」は先進国と新興国とでさらに分かれていることが多い。これらも時価総額で調整すると次の通りとなる。

  • 日本株クラス: 10%
  • 外国株のうち先進国クラス: 80%
  • 外国株のうち新興国クラス: 10%

この重み付けで毎月の積立額を配分していく。一度設定してしまえば放置しておける。

例えば日本株クラスであれば、耳馴染みのある指標である「日経平均」は日経新聞社による恣意的な銘柄構成がとられているが、東証が発表する指標「トピックス」は時価総額に基づいて選別されている。そんな細かいことは気にしていられない方は同クラス内で最も手数料の低い商品を選べば差し障りない。

ちなみにクラス分けは市場単位で行われる。つまり「勢いのある中国企業に賭けたいのに新興国へ1割しか割り当てないのは少なすぎる」と懸念しているかもしれないが、世界的な中国企業はニューヨーク証券取引所やナスダックに上場しているので心配ご無用というわけである。むしろ新興国クラスは手数料が割高なのでそもそも手を出さない判断を下してもよいだろう。

またイデコの口座を開く証券会社としては、楽天証券かSBI証券が現実的な選択肢だ。もちろん勤め先の指定がある場合は選択の余地はないのだが。筆者が利用しているのはSBI証券で、親兄弟に勧めたのは知名度が比較的高くVTも選べる楽天証券だった。

さきほどから楽天VT推しが過ぎるようだが、定番中の定番商品なのでご容赦いただきたい。投信ブロガーの投票による Fund of the Year 2017 でも1位を獲得している。

(6) 個人投資家の味方

信頼のおける識者として筆頭にあげたいのは山崎元氏だ。彼の書籍に外れはないので、気になる切り口の書籍を手にとってみるとよいだろう。定番書としては『全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド』がある。

(7) 発展的な話題

イデコは一度設定してしまえばやることがなくなる。だからこそ素人向きなのだが、正直にいってちょっかいを出したくなる。そこで定常運用モードに入った後に行える保守業務としてリバランスを紹介する。
イデコには手数料なしで保有商品を付け替える「スイッチング」と呼ばれる機能がある。この機能を活用してリバランスを行ってみてほしい。リバランスとは保有資産を時価総額加重に近くなるよう調整する作業のことだ。

※複数商品を保有している場合にのみ必要な作業である。楽天VTなどで単一商品のみ保有している場合はリバランスは運用担当のプロの手で勝手に行われている。

例えば、前節で触れたように下記の配分で積立しているとしよう。

日本:外国先進:外国新興 = 1:8:1

このとき、仮に日本の景気がよければ保有銘柄は 2:7:1 のような割合に偏る。これを 1:8:1 の割合に戻すよう付け替えるのがリバランスだ。いったい何のための作業なのか疑問かもしれないが、この操作には相場が上がった商品で売りぬけて(いわゆる利益確定)、割安な商品に付け替える効果がある。
なおリバランスの頻度はトレンドが一巡する四半期に一度〜一年ごとが好ましいとされる。極端な調整が入りがちな決算期前後や税額確定に関わる年度末はリバランスの主旨にそぐわないので可能であれば避けたほうが賢明だろう。

(8) 免責事項

ここまで独断をまじえてイデコをおすすめしてきたが、あくまで資産運用は個人の判断に基づいて行うことは肝に銘じてほしい。この記事に基づいた投資で元本が毀損された場合にも筆者は一切の責任は負わない。

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