プロダクトオーナー入門書

先日、認定スクラムマスターの研修を受けた。そこでプロダクトオーナーこそ製品を成功させるために最も重要な役割を担うと講師の方が繰り返し説いていたのが印象的だった。

分かっているようで分かっていないプロダクトオーナーという役割。実践に適した良書を発見したので紹介したい。

科学的な製品開発

ソフトウェア開発に関わったことがあればプロダクトオーナーと言われれてだいたいどういう役割かのイメージは付くだろう。しかし体系的な理解があるかと問われれば少し心もとない。業界としてもプロダクトオーナーは専門性が確立していないと言い切ってもいいだろう。

そこで現時点で明らかにされている知見を学ぶべく『The Professional Product Owner』 を読んでみた。

読み始めて、購入前に目次をみただけでは分からなかった本書の利点に気づいた。まず各章末の参考文献数の多さが特筆に値する。さながらサーベイ論文のように多くの研究結果に基づいている。

根拠や出典が示されているので必要とあらば建設的に反論すらできる。反証可能性こそ科学だとする定義に則れば、本書はソフトウェア業界の製品開発を科学的に扱っているといえよう。

実践に耐えうる方法論

科学的なアプローチがとられているとはいっても応用から遠い印象は受けなかった。本書の説明は単純明快であり実践的である。

例を示そう。本書の核となる概念としてプロダクトオーナーが果たすべき3つのVが紹介されている(図1−9)。

それぞれのVの具体的な定め方、そして成果の出力先は何か(製品のリリースだ)、プロダクトオーナーの責務の範囲、そしてそもそもなぜVを定めなければならないかが非常に巧妙に整理されている。よほどの自信作なのだろう、著者らによるとこの概念の整理法にたどりついたと感じたからこそ本を書くに至ったと述べている。

少しだけ具体的に見ていこう。本書では vision や value らがなぜ大切なのかを、組織に落とし込む際の指針になるように説明している。すなわち、次のような整理が試みられている。

  • Vision: transparency
  • Value: inspection
  • Validation: adoption

個人的にはこれほど整然とした解説は見たことがなかった。ビジョンは未来の道筋を示すことで透明性を高めるのが狙いだ。バリューは行動原理を示し、働き方の振り返りや人事評価などの点検に用いられる。バリデーションはありていに言えば現場における型のきまった仕事の進め方だ。

さらに詳しい実践手段が各章で丁寧に紹介されているのでぜひ本を手にとって目を通してみてほしい。

癖のない一般書

関連するトピックとして、冒頭でふれたスクラムマスターの研修の感想も述べておきたい。個人的にはスクラム自体には人間中心で好ましい印象を受けた。

しかし一方、スクラムやアジャイル界隈にはわりと癖の強い論者が多いと感じることはないだろうか。

先述のスクラムマスター研修の講師はプロダクトオーナーがfeasibility studyまで済ませるべきとの論陣をはっていた。一般に研究開発期間のスプリントとして「Spike」が用意されるが、それは好ましくないプラクティスだとの立場をとっていた。意図するところは分からないでもなく、つまり仕様策定時に実現可能性は検証済みでなければならないということだろう。そのためにプロダクトオーナーは開発者とは別に仕様策定のためのチームを有するのが前提となるなど、かなり制約の強い論である。例えばPhDを持つ研究者らが機械学習の精度やスケーラビリティなどの検証まで済ませて、開発に引き継ぐような体制が想定されているのかもしれない。

他にもリモートワークは「遠距離の結婚」みたいなもので、製品を失敗に導きかねないと主張するなど、現場との乖離を吸収してからでないと採用しにくい点もあった。

それに比べると『The Professional Product Owner』は取っつきやすい本だった。あの「Spike」についても1つの手段として提示されていた。英語の書籍ではあるが、表現は平易なのでソフトウェア業界の用語が分かればあとは高校英語くらいの前知識で読み進められる。

噛めば噛むほど味がでるような内容なので、製品開発時に振り返りながら読むとよさそうな印象を受けた。もし実践する機会があれば追加でレビューしてみたい。

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