N国「立花孝志 (@tachibanat)」の倒し方

N国の勢いが止まらない。主要な経緯は メディアはN国の取り上げ方をよく考えて(江川紹子) – Y!ニュース を参照願いたい。

そこで本稿ではN国党首の立花孝志氏 (@tachibanat) の戦略をいかに無効化するかを考察する。しかし私の見立てが正しければ、そもそも多くの人は「どうしてN国なんかが当選したんだ」、「なんだか立花代表は底知れない」と考えている。本稿ではその疑問を解きほぐすことにも貢献できればさいわいである。

立花孝志を倒す3つの方策

立花氏から敵対視されている民放や新聞といったオールドメディアがN国の立花代表を失脚させるには大きく3通りの方策がある。

  1. 無視する
  2. 敵失を狙う
  3. 批判の余地をなくす

従来であれはこのうち1つでも実行すれば立花氏を容易に止めることはできただろう。しかしYouTubeの台頭により環境が変わり、3つの方策のうち少なくとも2つ以上を実施しなければならなくなってきた。整理すると、

  • Before YouTube: 無視すれば十分だった。念のため評判が下がる事件を起こしたときにネガティブな報道をすれば再起不能にできた。
  • After YouTube: 無視しにくい状況を作り出されてしまう。いくら敵失をネガキャンしてもN国の認知度向上と広告収益に還元されてしまう。

となる。

立花氏の対応策を掘り下げるまえに、彼の人柄を紹介しておきたい。

立花代表は「無敵の人」なのか

立花代表のYouTubeをウオッチしていると敵失を狙うのは思ったほど簡単ではないことが分かる。彼は「ルール厨」のような側面があり(法の支配の文脈では何らそしりを受ける性質ではない)、常人以上に法解釈に気遣っている。NHKとの係争では非弁行為で問題となったことすらある。特にN国が国政政党となってからは、看板である受信料踏み倒しにしても刑事事件にせず民事の範囲でおさめる戦略をとって扇動している。

またオールドメディアとの戦いで連想される典型例はホリエモンだが、彼のような不正な会計処理などに焦点が当たることも当然想定される。しかし逆に既存政党の資金の流れに透明性が欠けるとの反論が予想されるため大々的に批判されることは考えにくい。また立花代表自身がNHKの経理職だったことやYouTubeがクリーンな資金源として下支えすることを考慮すれば、それこそライブドアやカルロス・ゴーン元会長のように高度な金融スキームに範囲が及ばない限りほころびは出てこないのではないだろうか。

なかにかにしぶとい。最も効果的な攻撃の仕方は勢いの源泉であるYouTubeチャネルを閉鎖に追い込むことだが、打ち手に乏しい。実はすでに過激な発言により立花代表はすでにアカウント停止を経験しているが、華麗に復活している。そののちも規約で禁止されているアナリティクスを動画で公開するなどの脇の甘さはあるものの、オールドメディア側から働きかけられることは限られており、仮に疑惑であったとしても暗躍したことが表に出るとそれこそ別アカウントでの再起を盛り上げてしまうだろう。またGoogleの運愛側が現職の国会議員によるチャネルの公益性を重く捉えて閉鎖しない方針をとることは想像に固くない。

そう、現時点で彼は「無敵の人」を体現する人物である。生粋の無頼漢としてのし上がってきた彼の野望を打ち砕くには、どうすればいいのだろう。

N国党の弱点は党内のガバナンス

では何を攻めるか。党の所属議員である。これからN国が政党として成長するにあたっては党内のガバナンスが問われる。しかし過激な党代表のもとに集った所属議員を統治するのは一筋縄ではいかない。これは第3極として支持を伸ばしている維新も苦しんでいるが、所属議員が刑事事件でも起こせば任命責任を問われかねない。

過日、N国の幹事長にジャーナリストの上杉氏が起用された。立花代表は永田町の力学やお作法は上杉氏の入れ知恵であると公言してはばからない。そして公認候補の任命権は上杉氏に一任とのことで「任命責任」には一枚プロキシが挟まることになる。しかし民間から選ばれた上杉氏の辞任に重みがあるかは議論の分かれるところである。

いずれにせよ、N国を1政党として冷静に見るとスタートアップ企業のような立ち位置である。急成長する組織が構成員の質の担保に失敗した例は枚挙にいとまがない。まさに立花代表が経営する「立花孝志ひとり放送局」の名が示す通り、彼は1人でフロントに立ったからこそ無敵だったのだ。地方議会で当選者数を増やしているものの、国会で党勢を拡大できるかは未知数であり脆弱な部分である。

次の衆院選が分水嶺となるだろうが、現時点では「政治とは数である」との金言が示す通り、N国に組織としての強さはない。弱小政党から抜け出せるかは立花代表にとって難しい舵取りとなる。

N国は原因でなく結果

おめでとう、オールドメディア! N国は政党要件を失い、あなた方は立花氏を失脚させることに成功した(と仮定しよう)。

ここで残念なお知らせが1つある。それは無事に立花氏の失脚させたとしても第2・第3のN国党は出現するということだ。

なぜなら環境は変わっていないからである。いずれ過去の失敗から学んだ、もっと手堅い戦略で支持を伸ばす党は必ずや現れる(ちょうどN国が希望の党から学びとったように)。あるいは既存政党が手法を取り入れるかもしれない。

いわば立花孝志の出現は「原因でなく結果」である。これはトランプ旋風と同じ構造であり、①発信を増幅させるソーシャルメディアやYouTubeが整い、②社会に改善の余地がある、とN国に類する動きは無限にわいて出るのである。まさに米国のクリントン候補が見誤ったのは、あるいは良識派が伝統的に軽視してきたのは、N国の支持者のような「見えない人々」である。

従来は「俺たちを無視するな」という庶民の声は行き場がなかった。しかし情報の民主化と流動性が向上した結果、動員が可能となった。具体的にはN国のやり方で投票者のうち 2% が動いた。これは立花氏が発した「令和の百姓一揆」や「既得権益と戦う」といったメッセージに呼応した層がいたことを示している。

オールドメディアの幹部らはエスタブリッシュメントであり、経済的に困窮していない。継承された資産や規制に守られ雇用に不安はない。彼らには有権者が「なぜN国に投票したか」は到底理解できないだろう。不思議に思っているのだ。いや、浅はかだとすら思っている。

しかし有権者は確実に正しい行動をしている。ピケティの著作を引くまでもなく、歴史的に経済的困窮を支えている構造をひっくり返すにはフランス革命や世界大戦などの破壊的なイベントしか実績がないのである。それを踏まえると、最も破壊的な候補者であるN国を選んだのは理にかなっている。

有権者は最善を尽くした。いわばN国の躍進は選挙を通じた合法テロなのだ。NHKの集金はそれを引き出すよくできたフックに過ぎない。立花氏をヒトラーに模して批判する指摘があるが、それは驚くほど正鵠を射ている。もし大戦前の連合国側の中銀総裁がドイツを経済的に追い込んでいなければ、ヒトラーへの支持は起こり得なかったのだから(詳しくはL. Ahamed『世界恐慌』を参照のこと)。

YouTube vs オールドメディアの対立を乗り越えて

誤解されるかもしれないが、私自身は無党派層であり特にN国の支持者ではない。個人的にはNHKのスクランブル放送や周波数オークションを任せるならN国よりも自民党を選びたい。

しかし立花氏が単なる泡沫候補に終わらず、分かりやすい政策を掲げて有権者の心を掴んだ手腕は評価したい。というか、その事実から目をそむけるとかえって危険だというのが正直な心境だ。そういう意味で表面的な彼の言動だけを批判して溜飲を下げている識者には失望している。

特に「おやっ」と思わされたのは外国人記者クラブでの質疑の場面だ。立花代表がNHKを公共放送として監督する方策を尋ねられて、会計検査院や国民により選ばれた審査委員会を案として答えた。

なんとなく流していた会見だったので「おお、会計検査院を出してくるとは!」と驚かされた。マイナーな論点ではあるものの、会計検査院は憲法にも定めがあり、権力監視の重大な役割を担っている。私自身にその会計検査院の独立性が脅かされているという問題意識があったため、彼の意見に耳を傾けようという気にさせられたのである。

ただ立花氏のYouTubeチャネルを掘り起こせば、彼の近視眼的な外交観も見て取れる(支持できないのでリンクは控える)。しかしむしろ十分に思想信条を発信してくれれば継続的に監視できるので実態の見えにくい他の多くの議員より対応しやすい。ましてや進退についてはNHKのスクランブル放送だけを達成すれば辞職すると明言していることもあり、その一点から議員活動が逸脱しているかだけを見ればよいので大きな心配はしていない。

自民党の弱点は再分配政策

そんな私とて、期待する政治家がいないわけではない。最も強烈な格差を抱える米国ではサンダース上院議員が「トップ1%」の富裕層やグローバル企業への適正な課税を訴えて大統領候補としても 54% と最多の支持をとりつけている。さらに年齢が若い @AOC 議員も「メディア映え」するパフォーマンスを含めて飛ぶ鳥を落とす勢いで大変な人気がある。ちなみに彼女は議会において前出の会計検査院のような(日本での予算委員会)、あらゆるテーマを扱える委員として活躍している。

日本の格差は米国ほど激しくないものの、私としてはこうした分厚い支持層を抱える運動が日本に波及することを願っている。その素地は整いつつあることを示そう。

まず日本に限らず先進各国の若者世代は、中間層への到達が旧世代に比べて難しくなっている。

若年層は根本的な格差解消の難しさを肌身で感じており、先の見えない閉塞感のなか生活している。まさにピケティの r > g なのだが、再分配に手を付けずには格差が広がるばかりであることを示せば、支持が広がる素地は整いつつある。

生活保護水準以下の暮らしをしているワーキングプアが話題になること自体が再分配政策が機能不全を起こしている証左であるが、とりわけ酷いのは一人親世帯の苦しさである。なんと、社会保障制度や税制度によって日本の子どもの貧困率は 悪化 している。見捨てるだけならまだしも、足を引っぱっているのだ。

また自由競争だけでは格差是正は達成できないとする最近の経済学の知見も興味深い。

価格を通じて需要と供給が一致するような競争的な市場は、功利主義者が唱えるような「最大多数の最大幸福」を達成することができない

「市場で再分配が可能」という前提を疑え – 日経ビジネス

要するに経済発展すれば下層にまで恩恵が行き渡るという「言い訳」(専門用語で「トリクルダウン」と呼ばれる)が完全な誤りではないにせよ、控えめにいって欺瞞の塊であったことが明らかにされている。直感的には次の図が趣旨をうまく示している。

今回の参院選の結果を見ると、多くの若者は雇用を改善した現政権の金融政策を支持していることがわかる。それを踏まえるとアベノミクスを頭ごなしに否定するのではなく、中長期的には再分配の議論が避けられないことを示したほうが得策だろう。そういった意味で野党支持一辺倒の 薔薇マークキャンペーン は安倍憎しのあまり目的を見失っていると断じざるをえない。

ちなみに再分配の話になると一足飛びにベーシックインカムが話題にのぼるが、再分配であるからには入口と出口の両方を丁寧に設計してはじめて価値がある。つまり徴税の仕方こそが要点となるのだ(これについては 社会保障は避けて通れない にて詳述した)。
そこで日本維新の会の藤田議員が、まさにYouTubeやTwitterといった場で資産課税、特に相続税にまで検討課題として言及したのは支持したい。

私は維新の父権主義的な(言い換えれば説教臭い)ところは苦手なのだが、個人的に既存政党のなかで最も再分配政策に前向きなのが維新だと捉えている。これには理由がないわけではなく、特定の支持母体がないからこそできる動きである。逆にいうと経団連などを支持母体とする自民党は苦手とする分野だ。現政権が法人税を切り下げ、逆進性の高い消費税をおしすすめてきたことからも明らかだ。

維新は(上述のYouTubeでも言及があるので自己認識はあるようだが)伝統的に「自己責任」を強く押し出してきた経緯があるものの、他の野党と一線を画するのは地方自治体で教育無償化などの実績を残している点だ。期待しながらも今後の展開は見守っていきたい。

批判の余地をなくす

冒頭で、立花孝志を倒す3つの方策のうち最後に「批判の余地をなくす」と掲げた。これは不断の改善により有権者や視聴者からの信託を勝ち取り続けることだ。教科書通りの対策であり、これに勝る対策はない。

つまりメディアがN国の勢いを封じためにとるべきアクションは次の通りだ。

  • 炎上目的の煽りを無視する
  • 所属議員の任命責任を厳しく追及する
  • 格差是正に向けた政策について調査報道をし続ける

要するに有権者により選ばれたN国を過小評価せず、かつ厳しい目で監視しする。そのうえで社会が抱える機能不全の元凶に立ち向かおうとする動きを研究し、広く知らしめる。逆にこうした当たり前の役割を果たせていないと足元をすくわれることになるだろう。

ビジネスの世界では SaaS と呼ばれる新たな商形態が確立されつつあり、くしくも立花氏が政見放送で語った「正直者がバカをみない」競争環境が育ちつつある。遠くない未来に、政治の世界でも正攻法こそが最も強い戦い方になる日が来るだろう。

追記 2019-11-15: 規約違反によりYouTubeの広告収入が絶たれたとのこと。タイミングとしては彼が埼玉補選に出馬するにあたって国会議員を辞する前後であったと思われるが、Googleにとって現職の国会議員だろうと自社の規約を優先してしまえるということで少し空恐ろしい。ともかく彼を無敵の人たらしめていた安定的な活動資金源が失われたことにより、一気に勢いを落とすことが予想される。なんと自ら凋落する顛末となった。しかし本稿で述べたとおり、N国現象は「原因でなく結果」である。構造が変わらない限り、第2第3の立花氏は現れるだろう。しかも、より巧妙な立ち回りで。

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