英会話感覚でMBAに通ってみた

英語学習への関心が高まりをみせる一方で、一般的な社会人に手の届く選択肢は限られている。そこで今回は金銭面と時間面での制約を取っ払ってくれる、米国のオンライン大学 University of the People (通称 UoPeople) を「在校生」の一員として紹介したい。

■ 学生の97%がUoPを推奨

先進的な教育機関。今回紹介する UoPeople はイスラエル系アメリカ人の Shai Reshef が「授業料無償」を目指して設立したオンライン大学だ。現学長である彼自身が構想について語ったTEDトークがあるので興味があればご覧いただきたい。

余談: UoPeople は非営利団体なのだが、高度な自動化されたマーケティング手法は見事である。汎用的な顧客管理システムで各種連絡やリマインダーが自動化されているうえに学事予定はGoogleカレンダーで購読できる。

学生の満足度の高さ。学生からの評判は総じて良い。直近の調査では実に 97% の現役生および卒業生から「推奨」の評価を得ている。私自身はUoPeopleにて教養科目を履修したに過ぎないが、満足度は非常に高い。決して都合のいい数字のマジックなどではないと断言できる。

学生の多様性。学生の出身国は幅広い。後述する英語の授業では北米地域の移民1世の子持ちの学生を見かけて、感銘を受けたものだ。日系の名前も2人ほど見かけたことがある。中心となる年齢層は20〜30代だが、40〜50代の学生も1000人単位で在籍している。

■ 英語学習環境としてのポテンシャル

出費が抑えられる。断っておくと UoPeople は学位取得の費用が全くの無償というわけではない。費用の内訳は下記の通りで、しっかり勉強すれば総額 30〜60万円 未満で学位取得が可能である。学士号のほうが期間が長く授業数が多い分、総額は高くなる。

  • Application fee: $60.00
  • Proctor: $17.50 per exam
  • Assessment fee:
    • Undergraduates: $100.00 per course
    • Graduates: $200.00 per course

れっきとしたアメリカの大学の卒業資格が得られることを考えてみれば決して高額とはいえない値段である。私自身としては、すでに修士号を取得しているので学位の必要性は高くなかったが、オンライン英会話より安いことを考えてUoPeopleに出願した。

英語で学ぶ。学術機関で学べることと、英会話で学べることは違う。英会話ではその名の通り言語の4技能のうち「聴く」「話す」に重点が置かれる一方で、大学は「読み」「書き」が中心となる。

  • 英語学習を構成する4技能 (writing, reading, listening, speaking) – TOEFL, IELTS などで計測:
    • 大学: reading + writing
    • 英会話: listening + speaking

世間一般の英語学習の需要としては、英会話が圧倒的なのではないかと思う。それは日本人のコンプレックスとしてだけではなく、実際のIELTSなどのスコアからも推察できる。一方、UoPeopleでは英会話よりも読み書きの優先度が高い。効率よく文献をインプットしたり、質の高いをアウトプットしたりといった部分を改善したい学習者向けである。そもそも学術機関なので「英語を学ぶ」ではなく「英語で学ぶ」という意識での取り組みが求められる。

証明のしやすさ。英語圏の大学を卒業した資格が得られる。これはキャリアの選択肢を増やすにあたって非常に有用である。むろん有名大ほどの評判はないが、費用対効果の大きな投資であることには違いない。

■ 入学許可と ENG 0101

さて、多くの受験者が最初に直面する関門は、英語である。英語の学習環境にアクセスするために英語の試験があるのかよと思われるだろうが、ここは前向きに「英語を学ぶ」から「英語で学ぶ」にフェーズが変わるにあたっての通過儀礼とでも捉えてほしい。

具体的には英語圏の高等教育機関を卒業するか、各種英語試験(TOEFL, IELTS, Eiken)で規定の点数以上を取得していれば入学が許可される。あるいは本科を履修する前に ENGL 0101 と呼ばれる教養科目をパスすることが求められる。私は IELTS のスコアが 6.0 だったのでMBAコースの規定である 6.5 に達しておらず ENGL 0101 を履修した。 授業機関中に出張が入り課題の提出などに苦戦しつつも、成績は B+ (above average) だったので余裕を持ってパスしたことになる。

授業は「読み書き」に重点が置かれている。これは通信環境の整っていない地域から参加する学生がいることや、そもそも学術研究において求められる技能が考慮されている。私自身は特に期待を裏切られることもなく、学びのある受講ができた。授業の印象を何点か書き出しておく。

読み応えのある課題図書。指定された要素を含んだレビューを投稿して、他の生学生に採点してもらう。僕が読んだのはオスカーワイルドの児童書『The Happy Prince』に始まり、アガサ・クリスティの短編『Sanctuary』、キューバの作家、キエフ出身のユダヤ系フランス作家など多様性に富む布陣。その他、僕は選ばなかったがチェーホフやアフリカの作家なども。村上春樹『象の消滅』も混じっていた。

ライティングの技能習得。自分で選んだ題に沿って論文を書き、完成度をあげていく。これも基準に沿ってピアが採点する。個人的に学びになったのは parallel construction, five-paragraph essay など。出張中に夜ふかしして提出した課題が一部の基準を外していて点数が伸びず涙をのんだ。提出前に要件を満たしているかは見直ししよう。前向きに取り組めば『The Elements of Style』に載っているような技能を習得できる。

ピアレビューの利点。オンライン履修に適していて個性が見えて孤独感が薄れる。学習のペースも掴みやすい。採点の公平性に疑問があるかもしれないが、教師の配点は高くなっているので許容範囲。そもそも教師が信頼できるとは限らないので一人に依拠するより好ましい形式だと思う。課題は技巧を凝らすのではなく非ネイティブ向けにプレーンな文章を記載するよう心がけよう。

■ コース選択の考え方

研究者養成ではなく実学重視のコースが用意されている。最も人気なのはコンピューターサイエンスの学士号で、次点はMBA取得を目指すコースだ。どういった科目が履修できるかは Online Syllabus Repository (OSR) でシラバスを参照してほしい。私はすでに情報科学の修士号を取得済みなので、職場でのコミュニケーションに活かせるMBAを選考することにした。

■ あらたな選択肢として

日本国内で社会人学生として修士号を取得した経験からいわせてもらうと UoPeople はリカレント教育の一環のとして理想の大学のうちの1つである。対面での指導が手薄である反面、特にオンラインでの授業は時間の融通が聞きやすいのが最大の利点だ。なお、高校を卒業したての学生も参加は可能だが支えとなる人は必要になると思う。

興味があれば紹介リンク https://infl.tv/g3LY から問い合わせしてほしい。紹介者のうちインフルエンサーは粗品がもらえるらしいが、実質ほぼ名誉が得られるだけと思ってもらえればさいわいだ。