日本で差別について考える

日本語圏でも数多くのセレブリティが #BlackLivesMatter に言及しており、目につく機会が多くなりました。この問題をどう捉えていいか不安を覚える方もいらっしゃるでしょう。なぜこれほど世界を巻き込んで騒ぎになるのか「分からない」ことが不安に拍車をかけます。どことなく自分が責められている気がして、心に負荷がかかってしまうこともあります。そのためか、日本における人種差別の存在の否定といった反発めいた言説を述べる方も見受けられます。感心はしませんが、動機は理解できます。詳しく分からない情報に接したときに、否定から入るほうが自然な反応だからです。それに、差別に部外者なんていないので、誰でも考えを発信してよいのです。人種差別について自分の考えや指針が決まることで不安な気持ちが和らぎます。例にもれず、僕も社会の一員として「いかに差別問題を自分のなかに腹落ちさせているか」を書き下ろしておきます。

(1) 認知から始める

多くの 黒人 (アフリカ系アメリカ人) が awareness のために声をあげています。発端は George Floyd 氏の死亡でしたが、爆発的にデモが過激化しました。背景にあるのは「警察官からの不当な扱いで困っている」というブラックコミュニティの鬱積した気持ちです。警察の問題から派生して、その根本原因として人々の潜在意識や環境について語る人も少なからずいます。いずれも、自分が体験したストーリーによって問題に気づいてもらうためです。具体的な腹案を持つ人もいれば、そうでない人もいます。長い闘争の歴史がある中で、とにもかくにも「未だに私たちは不当な人種差別で困っているぞ」との悲痛な訴えをしています。ショッキングなだけに「観衆」の気持ちも少なからず傷つきます。もしあなたが悲惨な出来事に接して傷ついたならば、それは彼彼女らの悲痛な叫びが心に届いたということなのです。無関心から一歩、歩み寄れたのです。

あなたはどんな人の発信で心打たれましたか? 差し支えなければシェアしてください。僕は、やはり普段当たり前に見ている人のストーリーが心に刺さりました。アメリカのテック系 YouTuber @MKBHD こと Marques Brownlee の動画を紹介します。彼のガジェット批評は価値基準が共感しやすく、大変に信頼しています。そんな彼が個人的な経験や考えを述べてくれています。

競争の激しいテック系 YouTuber 界をリードする彼が、黒人としての経験を語ってくれたのは重みがありました。どちらかに分けるなら Marques は恵まれた環境にいた側でしょう。親が新しい挑戦を応援してくれて、大学を卒業もしています。そんな彼でも、スポーツやテック業界などでレベルが上っていくと周りに黒人がいないことに嫌でも気付かされたといいます。さらに Marques は動画内で 物理学者 Neil deGrasse Tyson のブログ を紹介しており、学術界でも黒人はマイノリティだと明かしています。功罪ありますが、アジア系は「遅れてやってきた移民」として公民権運動の成果の恩恵に浴しつつ、主に学歴を礎に モデルマイノリティ の地位にあることには配慮したいところです。新型コロナウイルスが中国発祥だったことでアジア系が不当な扱いを受けたことは確かですが、黒人男性の3人に1人が投獄されるなど構造的な差別と同列に語れるのか思いを巡らせてほしいと、アジアの同胞として切に願います。我々はブラックカルチャーの消費や価値観の固着から抜け出せる立場にいます。興味があれば、ぜひ現代アメリカに至る苛烈な歴史を紐解く第一歩として 13TH – YouTube をご覧ください。ありがたいことに、専門家によって翻訳された日本語字幕で鑑賞できます。

(2) 制度改革に結びつける

多くの人々にとって癒やしとなるのは「問題解決に向けて着実に前進した」と確信できたときでしょう。ブラックコミュニティにとってはもちろんのこと、傍観を決め込んでいる(つもりで密かに良心を痛めている)大多数の「外野」たちも実のところ、救いを求めています。そして法治国家における前進とは、ルールの改正にほかなりません。結論からいうと警察の暴走を抑止する法改正が必要です。では、どんな改正ならいいのでしょうか。

よく言及されるわりに効果が明らかでない対策案は次の通りです。

  • 警察の予算を減らす
  • ボディカメラの徹底
  • 多様性の教育

代わりに、統計的に効果が明らかなのは、ルールで厳密に実力行使を制限することです。アメリカは群や市などの地方ごとに服務規程の厳しさに濃淡があり、それが警察官による殺傷数の差に結びついています。驚くほど地味ですが、ルールの欠如が悲惨な事件を増やしているのです。言い換えれば、警察官は単に「免責されているから殺傷している」に過ぎません。もし法改正によって制度を改善しなければ、それは現状維持の選択にほかなりません。

事件発生後、こんな「声」を聞いたかもしれません。

  • 平和的なデモもあれば、暴徒もいる
  • 良心的な警察官もいれば、暴走する警察官もいる

どちらも真です。いろんな人がいるのは当たり前で、個々人の判断基準が微妙に違います。だからこそ超えてはいけない一線をルールとして定めようというのです。近代国家において法執行機関は強大な力を持ちがちなので、その分だけ厳しい目が向けられねばなりません。警察が常に問題の発端となってきたのは有色人種を犯罪者として扱う司法システムの入口だからです。

こうした統計的に裏がとれた確固たる方針を頭にインプットしておくだけで、自分の中に流れ込む感情の振り先が決めやすくなります。ソーシャルメディアから流れてくるストレスを自身で消化するために、小さくてもいいので改善に向けた一歩を踏み出すことは大変有効です。言ってしまえば、僕自身も今こうしてブログに書き起こすことで自分の精神を救済しているのです。

(3) 反面教師とする

日本は高齢化で課題先進国と呼ばれますが、アメリカは多様性で課題先進国といえます。本邦でも類似の問題が深刻化しつつあることを踏まえて、他山の石とすべきです。民族間の軋轢は日本においても、すでに現在進行中の課題なのです。

  • 例えば技能実習制度はどうでしょう。労働基準法を遵守しない環境で、技能実習生はパスポートを取り上げられるなど人権軽視の環境に置かれています。恥ずべきことに国連から人身売買の勧告を受けるほどの事態に及んでいるのです。本来は同じ賃金体系で社会保障なども備えて、日本人と並ぶ水準の待遇で真正面から人材として競争すべきなのではないでしょうか。
  • 例えば行政機能についてはどうでしょう。アメリカで問題視されているのは警察と検察の独立性の欠如です。日本では検察と裁判所の独立性、つまり三権分立の原則の不十分さすら指摘されています。残念ながら直近のトレンド #検察庁法改正案に抗議します は現状維持側に加担してしまっています。
  • 人種からは離れますが、日本で最も深刻なのは女性差別です。国会議員や大臣の数、上場企業の役員数、生涯賃金、家事従事時間、どれをとっても先進国の名折れとしか言えない性差が浮き彫りになります。最近では職場でのパンプスの着用義務付けに抗議する #KuToo に注目が集まりました。

思うに、日本語圏のマスメディアで #AllLivesMatter と同趣旨の発言をしても問題視されないでしょう。少なくとも2020年現在ではそうですし、数年間は大きな変化がなさそうです。しかしそれは一部のマイノリティが「被差別的な待遇を受けている」と声をあげているときに、平等性という建前で「君たちへの参入障壁は今まで通り維持し続けるよ」とメッセージを発することにほかなりません。多少の不便さという代償を払ってでも、寄り添って連帯する姿勢を見せることこそ大切なのです。ときにポリコレ棒や言葉狩りと揶揄されて仕方ない運動があることは認めねばなりませんが、それは自分たちの安寧にのみ関心があるとしか思えない反応をとっていい理由にはなりません。

(4) 理想への距離を測る

現代社会では自己決定権や機会平等は全ての人類に担保されているべきです。しかし現実は汚れた歴史から地続きであり、その隠蔽のため近代的な装置によるロンダリングが今なお行われています。近代的な装置とは、兵舎・監獄・学校・工場・病院といったフーコーが “Micro-physics of Power” と呼んだ国家が規律を行き届かせるために整備した諸機関を指します。米国における黒人差別が特に象徴的なのは、奴隷の身分であった者たちを職業訓練する代わりに刑務所送りにしてマクロ的に問題を隠蔽していることです。つまり不幸な事件が偶発的に起こっているわけではなく、国家主導のシステムとして機能しているのです。立法府においても保守(共和党)だけでなく革新(民主党)の両派が厳罰化に加担してきたことからも、有権者の民意として制度が維持されてきたことが見て取れます。一方で、裕福層は高等教育の学費を高騰させ世代間の格差が固着するようペイウォールを敷いています。また先進国で唯一、国民皆保険制度が整えられていません。こういった大きな欺瞞の前線に警察が据え置かれているのです。我々は理想への道なかばにいます。

最後に差別に対抗するフレームワークを1つ紹介します。不正義を行う者は概して DARVO と呼ばれる反応をしがちです。まず Deny(否定)から入り、次に Attack(攻撃)、最後に Reverse Victim and Offender(被害者と加害者の逆転)とたどります。被害を受けたり目撃したりしたときは頭に来ますが、こういった枠に当てはめられると分かるだけで心が落ち着きます。まずは感情を消化したうえで、粛々と対応を進めてください。現代人が手にしている果実は膨大な闘争の積み重ねによって勝ち取られてきたものです。

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