横浜市長選とカジノ誘致

横浜市町選の公示があった。さすがに全国区で知名度の高い候補も多い。

最大の争点は IR (統合型リゾート; Integrated Resort) 誘致、なかでもカジノ施設の是非である。ということで、個人的なカジノに対する評価を書き下しておこうと思う。

現状の市政の問題点と解決案

結論から言うと、個人的にはIR誘致には肯定的な立場である。諸手を挙げて積極的に賛同するわけではないが、横浜の「構造的な問題」を解消するにはIR誘致が有望な選択肢だと考えている。

横浜の「構造的な問題」とは、住民が多いのに大部分が都内へ出勤していることだ。それのなにが問題かといえば、圧倒的に法人税収入が少ないことに尽きる。

それによって住民の多さに比べてサービスが追いつかなくなる。それを如実に示したのが、新型コロナのワクチン接種スケジュールの遅れだ。市内の現役世代は多大な不便を強いられた。それでいて、市税は全国で最も高い。高い税金を払って不十分な住民サービスに甘んじているのが横浜市民のおかれた現状である。

そこでIR誘致による観光収入に目を向けたい。むろん懸念はある。言ってしまえばギャンブル合法化の実験台になるわけで、反対の声があがるのもうなずける。しかしデータを参照すると、すでに日本はギャンブルにあふれている。そして競馬・競艇などの「公営競技」はもとより、射幸心を煽るゲームやパチンコを放置して、下手に「ギャンブルではない」という方便を用いることで、ギャンブル依存症が見えにくくなる事態に陥っている。田中 [2015] はギャンブル依存症の患者は「日本では成人全体の4.8%、つまり約20人に1人いると推定される」としている。であれば合法的にギャンブルを認めて、ギャンブル依存症をれっきとした精神疾患として扱うべきではないか。また「カジノにおける粗利がもっとも大きな国・地域はマカオで、その額は約4兆6000億円」で、一方、パチンコと公営競技をあわせた「日本のギャンブル産業の粗利は約5兆円」とされている。なんのことはない、日本は世界最大のギャンブル帝国だったのだ(ちなみにこの数字にはソシャゲなどの娯楽やFXなどの投機性の高い金融商品は含まれていない)。産業の特性上、集計の難しさはあるだろうから割り引いて話を聞くにしても、少なくとも日本は文化的にギャンブル施設を内包してきたと認めたほうが建設的な議論を進めやすい。他国に習って、ギャンブルを合法化することの条件としてIR運営企業の負担で基金などを設立して依存症の治療体制や研究開発を充実させるべきだと思う。逆に言うと、現時点で依存症の増加に加担しながら粗利を得ている側の企業は、社会のインフラに「タダ乗り」していることが浮き彫りになり、業界全体で改善の動きが出てくると期待される。

確かに合法ギャンブルの種類を無闇に増やさないに越したことはないだろうが、カジノは有望な外貨獲得手段という点が既存の施設との大きな違いになる。それでいて経済波及効果の大きさのわりにカジノの悪影響は制御しやすいと、他国の先例では評価されている。シンガポールのカジノが良い例だ。マリーナベイ・サンズなどが有名だが、どこも入場にあたってパスポートの提示が要求される。国民が入れ込みすぎないよう政府が明確にコントロールしているのだ。カジノがもたらす潜在的な悪影響を考えれば、これくらいの制限を設くのは妥当に思える。実際、IR整備法では日本在住のゲストに対しては6,000円ほどの入場料を徴収する予定らしい。わざわざ安くない航空券を自腹なり組織なりで買って入国してくる裕福な観光客と、地場の住民は明確に区別されてしかるべきだろう。それを思えば、駅前でサンダル履きでも気軽にギャンブルに興じられる現状は奇異に映るが、むしろ比較対象としてIRがあったほうが全体としての改善は進むのではないか。

《写真左奥がマリーナベイ・サンズ》

明け透けに言えば、カジノは「国内・一般大衆向け」から「国外・裕福層向け」にギャンブル産業の主軸を移す狙いがある。ちなみにIRがもたらす収入の内訳をみると、カジノの占める割合は意外と低い。ハイランド [2019] によると、例えばラスベガスでは「カジノ収入と非カジノ収入の比率を見ると、カジノ収入が30~35%、非カジノ収入が65~70%という割合」である。特に業界用語でMICEと呼ばれる分野は、大規模な国際会議などの着実な需要が見込まれることから《収穫しやすい果実》であり、旧来のハコモノ行政とは明確に区別できるだろう。これに比べて、はたしてIRの代替案はどれほど実現可能性が高いのかは吟味しておきたい。

横浜の強みは観光だ。とはいえ横浜に支社を構える外資系企業の従業員として働いた経験から断言できるのは「Yokohama」の国際的な知名度はそこまで高くない。港湾関係者には有名かもしれないが、一般的な観光客に知っている都市を聞くと「東京、京都、大阪」の名前を上げるだろう。ここに食い込むにあたってIRは大きな役割を果たしてくれるはずだ。

ということで長々とIR誘致に賛同する理由を述べてきた。総合して、カジノは横浜の長所を伸ばして短所を補う形でベネフィットをもたらし、逆にその悪影響は比較的制御しやすいのではないかということを言いたかった。

そもそも大きな観点として、地方分権が進んで特色ある自治体が増えてほしいとの思いがあり、もっと言えばその前提に「持続可能な成長志向」があり(他国は成長するので、成長しないと取り残される。例えば財政難でワクチン供給量を確保できなくなることに耐えられますか?)、このあたりの価値観が違えば、おのずと結論は違ってくるだろう。

家族がギャンブル依存症かもしれない場合

本題とははずれるが、万が一、身近なひとがギャンブル依存症だと疑われる場合は、精神科の受診をすすめてプロフェッショナルに頼ってください。それを恥とみなす文化は確かにあるが、愛では超えようのない病気だと認めることが第一歩。

たとえ本人が自己破産に追い込まれようと、決して借金を肩代わりしてはいけない。精神科医の田辺 [2002] は債務整理のための弁護士費用(業者1件あたり約3万円)や医療費のみに留めるよう助言している。また、家族全体の貸借対照表をつくり月次で更新していきましょう。

参考図書

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中