周産期医療と父親業 #育児

子が無事に産まれたので、備忘録を兼ねて夫の立場で経験したことを書き起こしておく。金銭でくくると各イベントを整理しやすいので先に書いておくと、大きめの出費としては大まかに次の通り。

  • NIPT: 17万円
  • 無痛分娩: 37万円
  • 産後ヘルパー: 18万円

妊娠は病気ではない?

まず妊娠の初期に「出生前遺伝学的検査 (NIPT)」を自費で受けた。先例として、先進各国ではNIPT後の確定診断で陽性であると分かれば大多数が妊娠を中断する。親の自己決定権と生命倫理が天秤にかけられており、手放しに推奨できる検査ではない。しかし自分としては検査を受ける選択肢があって良かったと思うし、保険適応などを含め社会的にアクセスしやすくなるほうが好ましいと考えている。現在、日本でもカウンセリング体制の整備などを含めた 指針改訂 が進んでいるようだ。

前提として日本の周産期医療は優れており、乳児死亡率 0.21% (2015) などに裏付けられている。ただ、何かを相談したときに呪縛かと思えるほど《妊娠は病気ではない》と言い聞かされた。その発想は制度にも反映されており、いつもの健康保険は使えず自治体から貰える母子手帳についてくる補助券を使う。とにかく回りくどい。妊娠と出産で2度も役所に参内させられるのも骨が折れた。

そもそも現在の公的医療保険は「不健康主義」ともいえる発想で運営されている。例えば予防医療は公衆衛生の観点で有用なのに保険でカバーできない。妊娠についても明らかにアブノーマルな状態なのだから、保険適用されて良さそうなものだ。そろそろ健康保険証をマイナンバーカードに統合できるようになるそうなので、制度上は別でも利用者は1枚のカードだけで完結できるなど工夫してほしい。

Infant mortality, 2015 and change 1990-2015 (or nearest year) – OECD

立ち会い出産

もう無痛分娩については、当たり前の選択肢になってほしい。むろん他の全ての医療行為と同じようにトレードオフはある。しかし歯科治療や外科手術で保険適用での麻酔は当たり前なのに、自然分娩では保険が効かないとは近代社会にあるまじき事態である。妊婦は「若者女性」で underrepresented の極北である。冷遇ここに極めり。正直、皆とは言わないが診療所の受付の人からすら《患者は申し訳なさそうにしておくべし》という抑圧を感じてしまった。妊婦に限らず、患者から医師へ疑問に感じたことを気軽に聞ける文化になってほしい。

診療所の負担で「出産送迎タクシー」が使えるようだったので予約はしていたが、結局は自分で運転したので利用はしなかった。あくまで社会貢献のような位置づけという印象を受けた。地域によっては対応できるタクシー会社が全く見つからない事態もありえそうだ。

さて陣痛が始まってモニタリング中は主に助産師さんが見てくれていて、いざ分娩って時に皆ワラワラ出てきて仕事に取り掛かるような体制だった。まさにプロによるチームワークであり、見ていて頼もしかった。僕は枕を支える役を仰せつかり、出産を見届けたあと迷走神経反射が起こり別の分娩台で寝かされた。仕事を増やしてしまい恐悦至極。

子育て世帯を孤立させるな

自分の勤め先は有給で最長20週まで休めるので、育児の分担はできる。しかし分娩後の数日は母子は入院する。父であろうと面会は制限されており、最大で1日3時間のみ。妻は乳の張りなど大変そうなのに代わってやれなかった。

退院後については、親類が遠方に居住しており本格的な手伝いは見込めないことは分かっていた。そこを金の弾丸で補うべく、あらかじめ平日 6時間/日 x10回で 産後ヘルパー の手配をしておいた。サービス自体は非常に良く、その場で細かな相談をできるのが意外と助かった。具体的には、マッサージと清掃および料理。ただ、予想以上に世話がかからない子だったので夫婦で相談のうえ結果的に計4回で早めに打ち切った。後知恵だが、キャンセル規定が厳し目だったので、予約時に短めの日数で依頼して必要に応じて追加の相談をするべきだったと後悔した。その後は、別の 訪問サービス を週2の頻度で 2時間/日 x20回を依頼する予定。

利用してみて分かったが、産後ヘルパーは子育て世帯の社会的な孤立を防いでくれる頼もしいサービスだ。他の東アジアの国々は産後ケアの体制が伝統的に充実している。エコシステムの広がりなども含め、参考にできるだろう。

【おまけ】新生児の扱いで一番テクニックを求められるのは授乳だと思う:

お役立ちアイテム

せっかくなので変わり種を中心に紹介しておく:

他は赤ちゃん本舗「出産準備リスト」の必要度が星3の物を揃えておけば手堅い。ほとんどの用品は必要になってから買っても遅くないので、特に場所を取りそうなものは焦らなくてよい。

チャイルドケアを支える技術

育児記録アプリ「ぴよログ」。新生児はおおむね3時間くらいの周期でミルクを飲んで、それ以外のときは寝ている。この記録を参照することで、親は予定を管理しやすくなる。食事量や排泄の回数が自動で記録されるので日々の成長も可視化できる。

ネットワークカメラ Tapo C210 も活躍。ベッドから起き上がって歩み寄らなくても、気になったときにアプリから子供の様子を眺められる。赤外線によるナイトビューがあり、消灯していても撮影される。サブスクで「赤ちゃんの泣き声」をAIで検知する機能があり、通知や録画をさせることが可能。

夫ならではの留意点

一般に夫の立場にある人が直面しがちな問題点とその緩和策を紹介する。

  • メンタリティ – 家事全般において「妻を助ける」という意識では地雷になりがち。せめて育休期間中は「母乳以外は自分でやって、できる範囲で妻に家事を手伝ってもらう」という心構えでいるのが丸い。
  • 優先事項 – 個人差はあるのだろうが新生児は生活リズムが整っていない点を除けば手がかからない。せめて産後の8週間は妻の精神面のケアを第一にしよう。
  • 健康 – 身長によっては 3 kg の新生児でも腰が痛くなる。自分の場合は、主にベビーベッドでのオムツ交換やキッチンシンク内での沐浴が原因だった。対策としては、子を高い机に運んでからオムツ交換をしたり、ベビーバスをキッチンのテーブルトップに置いて沐浴させたりした。

所感

妻の日本語に補助が必要だったことから、コロナ禍にありながら妊婦健診に付き添うことが許された。会社の支援がしっかりしていたこともあり、他のカップルよりは出産までのプロセスに夫として関わることが多かった。そんな状況での率直な感想としては、こんなんじゃ少子化なんて解決するわけねえ! もっと「上客」として扱って、甘やかせてチヤホヤしてあげてほしい。

現行制度は社会の歪みが随所に現れている。今後は、保育所の受け入れや各地域での赤ちゃん学級などが始まる。さらなる闇を垣間見れるのだろうか。ゴゴゴ…

コメントを残す

コメントを投稿するには、以下のいずれかでログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中