勝俣範之・他『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった 最高のがん治療』
何点か図表はあったが、オーディオブックで視聴しても分かりやすかった。
■ 予防は推奨グレードに注目
がんは日本では2人に1人が罹患する国民病である。厚労省 (2020) によると死因の最多を占めている 。
- 悪性新生物<腫瘍>: 27.6%
- 心疾患: 15.0%
医療の素人でもあっても、自分や身近な人に高い確率で起きうる病気を良質な情報源から知っておきたい。
あらゆる疾病と同様に、がんであっても予防や早期発見が大切になる。人間ドックなどの任意での選択肢を含めた がん検診ガイドライン が公開されており、このうち推奨グレードAおよびBのものを積極的に受けるようにしたい。
■ 腫瘍内科医を探せ
がんにかかってしまい治療を始めるとする。よくある治療の流れとしては、まず腫瘍を外科的に切除して、切除しきれなかった細かい腫瘍を潰しきって転移などを防ぐために薬物や放射線による治療を行う。
腫瘍内科医は複雑化するがん治療のスペシャリストで、特に抗がん剤による治療が専門である。治療方針の全体像の策定でも頼りになる。しかし日本における人材が米国の人口比で1割にも満たず、圧倒的に不足しているという。そこで日本では外科医が術後も薬物療法のフェーズまで担当することが多いそうだ。
腫瘍内科医の専門的な知見があれば抗がん剤の副作用による吐き気などを抑えられ、食事や睡眠の質が高まり回復も早まる。著者によると抗がん剤に詳しくないばかりに副作用を避けるため途中で服用を中止する判断すらしてしまうことがあるそうだ。
■ 緩和ケアの効能
結論だけ述べてもせんないが、書名にも含まれる「最高のがん治療」は標準治療を指す。そこで見逃されがちなのは、緩和ケアも標準治療だということ。研究によると痛みを抑えることで2ヶ月程度の余命の延長すら見込めるらしい。
本書でも偽医療の深刻さを紹介しているが、残念ながら「選択肢のなくなった患者」に緩和ケアの大切さを伝え切れていない医療従事者の拙いコミュニケーションが遠因になっている側面もあるだろう。