統率者戦でテーブルトップMTGを始めよう

モバイル版 MTG Arena がリリースされてから幾星霜。紙のマジックにも手を出してみたくなったので、前から気になっていたフォーマット 統率者戦 に挑戦してみた。

統率者戦の魅力

よく言及される 統率者戦 (EDH) の魅力は次の通り。

  • 多人数の楽しさ
    • ボードゲームのように遊べる
    • 試合時間が長く満足度が高い
  • 色々なカードをプレイできる
    • カードプールが広い
    • 禁止カードが少ない
    • シングルトンで再現性が低い
  • プレイヤー人口の多さ
    • 北米では最も人気なフォーマット
    • カジュアル層にファンが多い

期待にこたえるべくWoC社も力を入れており、新カードや人気カードの再録も(ときにコミュニティから問題視されるほど)充実している。

ゼロから始める多人数戦

まずカードは1枚も持っておらず、基本的なルールから覚えたいという初心者ならば『ゲームナイト:フリー・フォー・オール』が第一の選択肢。友人や家族と2〜5人で一緒にプレイできるので、割り勘で入手してもいいだろう。

帰省時なんかにゲームナイトだけ持っていって親戚と遊んでも楽しい。まさにボードゲームの発想である。

  • 普段は英語版しかシングル買いしない人も、このセットは日本語版を選んでみる
  • デジタルでしか遊ばない人でも、これだけは布教用に手元に置いてみる

次善策として、一緒にプレイしてくれる家族や友人が見つからない場合は MTG Arena のブロールやリミテッド・フォーマットで経験を積もう。デジタル・コンテンツへの課金は ウエルカム・バンドル (Welcome Bundle) くらいにしておいて、まずはゲーム操作がしやすい iPad を手に入れることをおすすめしたい。

構築済みデッキで始める

さて大まかなルールは分かってきてデッキを組みたいとなれば、予算が第一関門となる。圧倒的に安価なのは Starter Commander などから気に入ったテーマの構築済みデッキを手に入れる方法。ざっくりとした相場では、構築済みデッキをシングル買いしようとすると2〜3倍くらい出費がかさむ。

構築済みデッキ(英語で “precon” と省略して呼ばれる)を持ち寄って戦う Battlecruiser (BC) なるレベル区分があるので、特に構築に自信がない人に検討してほしい遊び方である。慣れてきたら財布と相談しながら何枚かシングル買いしてデッキを強化していくのもあり。

手始めに初心者が勉強になるデッキでいえば、墓地活用や生贄シナジーの柔軟さを体感できる「墓所の危険/Grave Danger」(青黒)を試してほしい。

出費を抑えるなら単色

もちろん「いやいや構築が楽しいんだから」という勢力もいるはずだ。その気持ちは痛いほど分かる。

そんな贅沢を許してくれるのが単色デッキ。先に言っておくと、初心者が組みやすいのは2色のデッキ。しかし何といってもMTGは多色土地が高価なので、出費を抑えてオリジナルのデッキを組むなら単色が穴場というのが本稿の趣旨だ。自分が好きな色や推しの統率者を引き立てるカードでデッキを組めば、色の制約も楽しむ要素になる。

単色だとシナジーが薄まりがちなので、次の例のように多重にサブテーマを設けてデッキにエッジを効かせてみよう。

そのほうが強いかはさておき、定番カードでも相性によっては外すくらい割り切ったほうがシナジーが効いて構築もプレイも楽しめる。

また単色で始めておけば「せっかくのEDHなんだから多色で組みたい」という欲が出てきたときに staple cards (色さえ合えばデッキに入れたい定番カード) の下地はできているので、追加の予算は抑えやすい。

迷ったら黒の統率者

統率者選びに迷ったらサーチカードやドローエンジンが優秀な黒から選んでみよう。

黒には《ヨーグモスの息子、ケリク》や《スランの医師、ヨーグモス》を筆頭に、初期ライフ40の恩恵を受けられるカードがそろいぶみ。特にケリクは Life as a Resource を体現する統率者となっている。

また青単の《最高工匠卿、ウルザ》も初手で構築しがいのある統率者。マナ加速の軽量アーティファクトを含めてEDH定番の無色カードを多めに集めることになり、他のデッキでも使い回しが効きやすい。

いちおう多色の統率者も紹介するとすれば、マジックの根幹「土地」を全力で活用する《創造の座、オムナス》に触れないわけにはいかない。土地をクリーチャー化するもよし、マナ加速でファッティに蹂躙させるもよし、風変わりなコンボを狙うもよし。ちなみにEDHRECは 予算 (budget) で安上がりなデッキを提案してくれる。情熱と財布の均衡を保とう。

忌み嫌われる “T” の一族

黒の統率者を推奨した手前、逆に最初のデッキとして避けたい頭文字Tの統率者たちも紹介させてほしい。

  • Tergrid: 対戦相手のクリーチャーを奪う
  • Tinybones: 手札破壊
  • Tymna the Weaver // Thrasios: 定番コンボを満載した型が散見される(他の型なら歓迎)

使ったら駄目というよりは卓で「地雷系のEDHをやってみたい」と合意を取ってからゲームを始めたほうがいいので、汎用性が低い。

代替案として悪戯系のデッキ構築をするなら、真新しい統率者にすれば「許容されやすい」だろう。さいわいにして統率者に指定できるカードは 400枚/年 (2022) 超のペースで増えているので候補には事欠かない。

デッキ構築入門

必携ツールの紹介を兼ねて、具体的なデッキ構築の手順を書き起こしてみた:

  1. 統率者を決める。特に推しがいないなら EDHREC でテーマから絞り込める。例:
  2. 続いて EDHREC で統率者を選択すると average deck を表示できるので、それをデッキのたたき台にする。シナジーの高いカードが揃っており、デッキの背骨になってくれる。
  3. デッキ編成は手書きのメモ帳でもできるが、おすすめは Archidekt で、マナカーブや部族といいった統計を表示したり、カードタイプごとにカテゴリーを分けたり、マナコストごとに並び替えたりと多機能。そしてマリガンを含めてデッキの一人回しまでできる。
  4. カードの検索は Scryfall が圧倒的に優秀。ぜひ使いこなせるようになっておきたい。検索結果をEDHでの採用数順に並び替えできるので効率的にカードを見て回れる。検索はタグ付けによる絞り込みができるので、新たなカードの発見に繋がる。どういうタグがあるかは tagger で探そう。
  5. デッキの登録やコレクションの管理は選択肢が数多あるが MTGGoldfish は大手だけあって付加情報が豊富。手持ちからデッキを組むのに足りないカードを一覧にできる。
  6. カードが揃ったらテーブルトップで一人回しはしておく。自分のデッキを迷いなくプレイできると、対戦相手のカードに注意を払う余裕が生まれる。

一巡したら、いくつか違うテーマでデッキを仮組してみよう。愛着がわいて意外と気に入るテーマが出てきたり、環境理解が進んで本命デッキに磨きがかかったりする。

カードに役割を割り振る

人気のEDH専門チャンネル The Command Zone がデッキ構築のテンプレートを公開しているので概要を紹介しておく。まず 平均マナ総量 (average CMC) は3くらいに抑えつつ、次のカテゴリーに分類するカードを入れていく。

  • コンセプト 30: テーマを体現するカードたち
  • 単体除去 10-12: 脅威を排して自分のプランを押し通す
  • 全体除去 3-4: 盤面をリセットする呪文
  • ドロー 10: 毎ターン土地にアクセスしたい
  • ランプ 10-12: マナ加速や色の安定化
  • 土地 35-38: マナ基盤

すると自然に「回る」デッキが完成する。これらの枠に入るカードに、次のような副次的な役割を持たせることを意識しよう。

  • Standalone 25: デッキの柱となる単体で強いカード ※主にクリーチャー
  • Enhancers 10-12: クリーチャーなどの強化
  • Enablers 7-8: コンセプトでケアできていない弱点を補う

もちろん慣れてくれば守破離で崩しを入れていいだろう。

多人数戦ならではの立ち回り

他のフォーマットと比べてEDHデッキを構築していて新鮮で楽しいのは、4人戦を前提としてカード選定する奥深さ。いくつかポイントを書き起こしておく。

  • 我を通す。妨害や対策は「ついで」程度に行い、自分のやりたいことを中心にすえてプレイする。ハイランダーなので自分のシナリオに沿ってプレイしようとすると、必然的にサーチの重要性が高まる。
  • 長期戦なのでカード・アドバンテージ源は必須。何ならカードへのアクセスさえ確保すれば土地事故すら解消できるので ドロー墓地肥やし の仕組みはコンセプトに沿うかたちで豊富に組み入れよう。かつ、そのエンジンはサーチして持ってこれることが望ましい。とはいえサーチ先や引きたいカードが入っていなければ本末転倒なので、あくまでシナジーを生むカードたちが主役。
  • リアニメイト主軸でなくとも何枚かは墓地に触れるカードも入れておきたい。釣ってくる前提で、自壊するカードは相対的に評価が上がる。例えば比較的 enchantment は壊されにくいが、英雄譚をはじめてとして、サイクリングで安全に墓地に落とせる《サメ台風》や生贄効果を持った《沈黙のオーラ》などは墓地を肥やしやすい。あるいは逆に Enchantress デッキのようにドローに振りきって《安らかなる眠り》や《屍肉あさりの地》で相手の墓地活用札を腐らせる方針にするのもあり。
  • 置物、特に enchantment は割られにくく放置されがち。その点で《リスティックの研究》は対戦相手からのヘイトは極大であっても採用はしやすい。クリーチャー・トークンによるビートダウンも多いので《亡霊の牢獄》といった自分だけ攻撃されにくくして「勝手にやりあってくれる」展開に持っていける妨害は重宝する。多人数戦だとPWは守りきれないので採用しにくいが、妨害系の置物と数体のブロッカーがいれば何とかなるかも。
  • 単体除去や打ち消しはリソースの消費が -1:-1:0:0 になってしまうので弱め。対象を取るカードは少なめに投入して、自分に影響が大きい脅威に絞って対処していこう。例えば積極的に墓地を肥やすデッキなら《漁る軟泥》はコントローラーのマナが寝ているうちに除去しておく、など。
  • クリーチャーを破壊不能や呪禁で守ることが多いので、バウンス・布告除去や全体マイナス修正が刺さりやすい。統率者領域があるので除去よりも《ケンリスの変身》などで戦場に留めたいこともあり。
  • ヘイトを集めずに妨害する。例えば白の定番ヘイトベア《ドラニスの判事》は、他3人の選択肢を奪いすぎるので除去されやすい。除去されると -1:-1:0:0 となりコスパが悪い。それであれば《堂々たる撤廃者》のように相手のターン中に誘発効果を「声掛け」しなくて済む 妨害札 を選びたい。もちろん警戒はされるがカジュアルな卓では放っておかれる可能性が高い。同じく白の《エスパーの歩哨》は誘発条件が付いており相手の行動も制限しないので、意外と心象は悪くない。むろん判事もEDHと噛み合った効果を持つクリーチャーではあるので部族など他のシナジーがあれば優先して採用できる。
  • ターンが回ってくるのが遅いので、追加ターンはもちろんのこと《憤怒》や《稲妻のすね当て》などによる 速攻付与 も価値が高い。特にタップ能力持ちのシステムクリーチャーへの速攻付与が強力で、例えば自分のターンのうちに《石鍛冶の神秘家》キャストからタップ能力まで起動できれば隙が小さい。同じく、瞬速や警戒といったキーワードも多人数戦での価値が高い。

会話が弾む共存共栄の道

多人数戦ならではでいうと、対戦相手1人に恩恵を与える selective-group-hug は工夫しだいで +1:+1:0:0 のアドバンテージ差を生むのでEDHなら活躍の機会がある。

例えば《第三の道のロラン》は対戦相手1人を対象にとってドローさせる。

  • ロランは対戦相手に恩恵を与える可能性があるので場持ちに優れる。パーマネントであることを考慮すると、カード・アドバンテージは +1:+1:0:0 で、対象は対戦相手の中から脅威になりにくいプレイヤーを自分で選べるので、見かけよりは使いやすい。伝説3マナと山札からも墓地からも引っ掛けやすさもよし。
  • 同じく多人数戦で活躍する《密輸人の分け前》と組み合わせて、ロランの {T} を相手のターン中に起動してドローさせると自分は2ドローできる。合計6マナで、次の自ターンまでに最低保証 +2:+1:0:0 の繰り返し。各エンドフェイズまで待って追加でドローしなかった相手を狙って恩恵を与えれば自分の番が回ってくるまでに4ドローも狙える。ただし、土地を探したいときは欲張らずに自分のターンでドローしておこう。
  • 対戦相手のアンタップ・ステップにロランを起こせる《鼓音轟かせ》と組み合わせれば、合計5マナで周回ごとに +4:+2:+1:+1 を稼ぐ。

しかも会話が弾むので楽しい。対戦相手から取引を持ちかけられる場合もあるので、いつでも使い回せる交渉材料を用意しておこう。例えば「自分目線だとマナが起きるまでタイムラグが大きいAさんを選びたいんですが、ここでBさんを選ぶと見返りはありますか」(ところでCさんの置物が厄介でして…)など。

交渉材料の例:

  1. その恩恵が最も刺さりにくいアーキタイプ
  2. 自分の上家(ターンまで遠い)
  3. プレイ順が最後だった人(もともと不利)

ロラン以外にも selective-group-hug 系のカードは多くある。例えば英雄譚《夜と昼の恋歌》は先述の《密輸人の分け前》と組み合わせて対戦相手1人に2ドローを強制して +2:+2:0:0 のカード・アドバンテージ差を生み出す。ボーナス1枚は終了ステップなので土地は2枚から探さなければいけないが、それでも選択肢はぐっと広がる。

心構えとしては、自分が能動的に引かせたカードでゲームが決まると後悔しがちだが、冷静にアドバンテージを算出しておけば過剰に落ち込むことはなくなる。ボードゲーム的な楽しさを生み出しているので、その時点で御の字でもある。

デッキ紹介 (2022)

単色縛りを課した自作のデッキを紹介する。サンプルとして参考にしてほしい。いずれもカジュアルな卓で楽しみながらプレイする想定になっているが、対戦相手の power level に合わせやすくするため参考情報を付している。

まずは power level = LOW から:

  • [5] Mono-White Equipment – 回していて楽しい装備品デッキ。赤タッチに見えて実は0マナ統率者なので白単色で完結しており、実勢価格は10万円を切る。いちおう勝利シナリオは2通りあるが、いずれもビートダウン一辺倒。アーティファクト・シナジーが見込めるので、予算を増やせば《魔力の墓所》や《オパールのモックス》も採用できる。それでも power level = LOW の範囲内に収まりそう。

次に power level = MID のデッキ:

  • [7] Mono-White Lifegain – 特殊勝利を試したくて組んだライフゲイン系のデッキ。変な挙動はしないので初心者向き。天使や妨害札で攻防しつつ、隙をみてコンボも決めていこう。安定した定番コンボ《歩行バリスタ》を搭載しているが、理不尽な強さは感じにくい。

最後に power level = HIGH のデッキ:

  • [8] Mono-Black LaaR – 本稿でも推奨した黒の統率者。最速1ターン目にケリクを着地させてスピード決着を目指す、まさに Life as a Resource (LaaR) をテーマにしたデッキ。教示者が多く入っているがコンボは控えめ。

制約のかけ方しだいでEDHの楽しさを高められる好例として「パイオニア縛り」も紹介しておこう。パイオニアのカードプールのみからEDHフォーマットに則って構築されたデッキで、単色と同じく価格が控えめになる。汎用性が高すぎる統率者が出たときは縛りをかけてそのオーバーパワーっぷりを発揮させよう。

  • [6] Simic Spellslinger – インスタント・タイミングでの駆け引きを楽しむ2色デッキ。実勢価格は5万円を切る。
  • [6] Jund Sacrifice – 生贄シナジーが詰まった3色デッキ。実勢価格は10万円を切る。

次の機会があればMTGにまつわるサプライ品やテーブルトップのプレイ環境について記事を投稿してみる。

以上

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